"Metropolis" IPA2024 最優秀賞
- kiyoshikarimizu
- 5月4日
- 読了時間: 7分
更新日:5月5日
International Photography Awards 2024 (IPA2024)
Architecture Photographer Of the Year(建築部門優勝)
Architecture-Other 世界1位

タイトルは「Metropolis(メトロポリス)」と言いまして、東京都庁の壁面を下から煽るようにとった写真にモーションブラーのエフェクトを付けたものです。実はこの構図自体は昔からあるもので、私オリジナルの表現ではありません。
私のオリジナリティーは、この東京都庁をフリッツ・ラング監督の「メトロポリス」という映画の舞台に見立て、エフェクトを加え表現したことにあります。一種のオマージュ作品ですね。
この「メトロポリス」という映画は、1927年に公開されたモノクロサイレント映画で、映画におけるサイエンス・フィクションの可能性を飛躍的に向上させたSF映画黎明期の傑作とされています。手塚治虫や映画「スターウォーズ」に影響を与えたことでも有名です。

ポスター見ていただくだけで、わかると思いますが私の写真とビジュアル似ていますよね。映画を知っている人であれば、ビジュアルとタイトル「Metropolis」で、ピンとくるわけです。これは映画へのオマージュ作品であり、「メトロポリス」の舞台を表現したんだと。
前段で述べましたが手塚治虫もこの映画の影響を受け「メトロポリス」という漫画を描いており、アニメ映画化されています。実はこのアニメ映画の建築物の方が、私の作品に似ていると思います。そして最後にみんな大好きスターウォーズ。実は裏テーマとして、映画「スターウォーズ 新たなる希望」で、Xウイングの攻撃により、破壊される帝国軍の軍事要塞「デス・スター」の最後のシーンを表現していたりもしています。詳しくは映画見てね!

どうでしょうか?視覚表現だけでなく、コンテクスト(文脈とか背景)を追加することで、作品は単なる美的なイメージを超え、観る人との「対話」を生み出しました。この対話は、観る人が新たな視点を得たり、記憶や感情を呼び起こされたりする瞬間に繋がります。「Metropolis」のように、多層的な文脈を持つタイトルとストーリーは、作品に深みを与え、鑑賞者に考える余地を残すのです。
特にこの作品は、オマージュという手法を用いることで、過去の芸術や文化への敬意を示しつつ、それを現代の表現として再解釈する役割を果たしています。鑑賞者にとっても、「メトロポリス」や「スターウォーズ」という共通の文化的背景を通じて、作品が持つ意味に親近感や共感を覚えやすくなります。これが日本でのみ通じる文化的背景であったならば、この作品は入選すらしなかったでしょう。
また、私の作品が示しているのは、オリジナリティとは必ずしも「全く新しいものを生み出すこと」ではなく、「既存の要素をいかにして新しい文脈の中で再構築するか」ということです。このアプローチは、アートだけでなく現代写真においても非常に重要な考え方であり、他者との対話を生む根源でもあります。
作品を通じて「メトロポリス」という映画や、それに影響を受けた漫画、アニメ、さらには「スターウォーズ」といった広大な文化的文脈を繋ぎ合わせているこの写真は、単なる一枚の視覚的な作品ではなく、物語の断片や歴史的背景を内包した「媒介」として機能させています。このような対話型の作品作りは、日本の写真文化とは異なり、欧米の現代アート的な思想を背景として初めて、価値が生まれるのではないかと考えています。
ゲストキュレーター Péter Bakiによる批評
2024年度のゲストキュレーターPéter Bakiが私の作品をmagazine Punktでこう批評してくれています。

「Metropolis」と題された彼の作品は、未来の都市の生活を描いたドイツ映画「メトロポリス」にインスピレーションを受けています。この日本人アーティストの写真では、反復的な形式と記念碑的で広大な内部スケールが前面に出ており、前年受賞作品と同様に都市のディストピアの可能性を高めています。この作品は、映画へのオマージュであるだけでなく、独自の比喩的な言語ソリューションを使用して、都市生活と建築環境が人々に与える影響を新しい視点から精緻に描いています。
えっ?何のこと!映画のオマージュはわかるけど写真なのに「独自の比喩的な言語ソリューション」って何よ?と思いませんでしたか。海外のインテリすごいなと私は思いましたね。
東京都庁を英語に直すと「Tokyo Metropolitan Government Building」です。メトロポリタンという言葉は、メトロポリスの形容詞ですね。この「Metropolis」というタイトルを付けるには、まず東京都庁という建物で無ければならなかったのです。
さらに深い部分まで、お話すると「メトロポリス」という映画は、支配者階級と、地下で過酷な労働に耐える労働者階級に二極分化した未来を表現した映画となっています。当時の時代背景でいうと資本主義と共産主義の対立を描いた作品ですね。熱狂的な労働者たちは、都市を動かす機械を無造作に破壊し、革命をなそうとします。
ちなみに最後に、支配者階級と労働者階級たちは和解へとたどり着きますが、体制としては崩壊するわけです。

東京都庁というのは、いわゆるバブル期に約1600億円かけて立てられた資本主義の象徴で見事にバブルは崩壊。老化に伴い巨額な投資を伴う大改修を迫られつつあります。その改修費は、建設費のほぼ半額の780億円。資本主義の崩壊を見ているようです。
また東京都庁は「バベルの塔」をもじって「バブルの塔」などと揶揄されました。ちなみに映画「メトロポリス」の建築物も「バベルの塔」を象徴しているように思います。
「バベルの塔」とは、人類がバビロンに天に達するほどの高塔を建てようとしたのを神が怒り、それまで一つであった人間の言葉を混乱させて互いに通じないようにした。そのため人々は工事を中止し、各地に散ったという。 旧約聖書の神話で人間の思い上がりの例えです。

分かる人には、私の作品のビジュアルとコンテクスト(タイトルと説明文)で、この作品は単なる映画へのオマージュ以上の意味が込められていることが読み取れるわけです。建築物としての東京都庁が持つ象徴性を通じて、現代社会の矛盾や脆弱さ、そして歴史的な繰り返しを浮き彫りにし、かつ映画「メトロポリス」や旧約聖書の「バベルの塔」をも背景にしたこの作品は、単なるビジュアルの美しさだけでなく、人間の文明が抱える普遍的なテーマについて想起させるのです。
特に、バブル期に建設された東京都庁がその後の経済の崩壊や巨額の維持費問題を抱える現状は、映画「メトロポリス」における都市の崩壊や再生の物語と深く重なります。映画で描かれる支配者階級と労働者階級の対立、そして最後の和解と崩壊のプロセスは、現代の資本主義社会が抱える不平等や課題を予見したかのようです。東京都庁は、まさにその象徴として現代の「メトロポリス」の舞台としてふさわしいといえるでしょう。
また、「バベルの塔」を象徴とする映画の建築物と東京都庁の類似性もポイントです。「人類の思い上がり」というテーマは、建築や都市計画における過剰な野心やその結果としての破綻を示唆しているように感じられませんか?東京都庁という実在する建築物が、このような歴史や神話の比喩と結びつくことで、写真作品にさらに多層的な解釈の余地が生まれます。
「Metropolis」というタイトルには、こうした多くの背景が凝縮されており、それを理解することで作品の奥深さがより一層明確になるよう私は設計しました。私の写真は技術的なテクニックよりも、作品に込められた発想や観念を重んじるコンセプチュアルアートに近いのです。
IPAのような国際的なフォトコンテストでは、こうしたアプローチが特に評価されます。それは、写真が単なるビジュアルを超えたアートとしての役割を果たし、鑑賞者に新たな視点や問いを提示できるからです。
もちろん、技術的な完成度も重要です。しかし、それだけでは作品としての独自性や深みを生み出すことは難しい。重要なのは、その技術をどのように使い、何を表現するかという「意図」と「メッセージ」です。
私はこれからも自身の作品において、ただ「見せる」写真ではなく、「考えさせる」写真を目指していきたいと思います。そして、私の作品が観る人にとって、ただの鑑賞対象ではなく、対話のきっかけやインスピレーションの源となることを願っています。
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